ハナマルユキ(7)


ハナマルユキの成長 その1

真野 進
(2002.01.16.)

タカラガイは一般に限定成長すると言われる。つまり、人間などと同じようにある時点でその大きさの変化が止まり、成体として形態的に完成される。しかし、その大きさの変化が止まるのは何時の時点か、何がそのきっかけになるのか等については必ずしも明らかにされていない。
又、ハナマルユキ、キイロダカラなどに見られる成長停止後の殻の変化(所謂、老成)が環境とどう関わっているのかについても興味深いところである。キイロダカラの多型について山口(1992)は、異なる生息域の個体群の観察から波の影響を指摘しているが、ハナマルユキについては、サンゴ礁では基本的に波当たりの強い場所に特化して生息するため同様の比較が出来なかったとしている。
 今回、ハナマルユキの幼貝(Bulla)を2匹採集出来たので飼育下における成長と殻の変化を観察した。

試料及び方法

試料

個体No. 産地 採集日 採集場所
caput01-01 三浦半島・三戸海岸 '01.10.15 潮間帯・岩の窪み
caput01-02 三浦半島・三戸海岸 '01.11.18 潮間帯・岩の窪み

飼育法  

30cm水槽(約8リットル)、自然海水にて飼育。10月21日より26℃定温ヒーター設置。  10日に一度2リットル程度水交換、1ヶ月に1度、全水交換。  餌は、主として海藻、カイメンを給与。

結果及び考察

飼育下における採食行動
 最初は何を食べるのか分からず、採集場所付近にある海藻類、乾燥ワカメなどを色々与える。

吻を伸ばして水槽の壁をなめる。
この行動は、水槽の壁に藻類が生えていなくても見られることから採食の基本行動と思われる。
アオサを食べる行動。
根で固定されていないアオサは採食時不安定なためか、時にこのように腹を上にして食べることがある。
このように、藻食が主体と思われるが時に海綿(クロイソカイメン、キイロの海綿)も食べることがある。ダイダイイソカイメンは食べないようで、海綿の種類も選択しているのかも知れない。

殻長測定結果

caput01-01

caput01-02

月日

殻長*殻幅 mm

月日

殻長*殻幅 mm

10.15

22.7

11.13

26.3

11.18

24.1

11.26

27.1

11.26

26.0

12.05

27.3*18.0

12.05

26.6*17.3

12.15

28.4*18.4

12.15

26.9*17.4

12.23

28.4

12月23日死亡

1.05

28.2*18.6

表の数値をグラフ化すると下図のようになる。

個体、caput01の画像

 11月8日撮影

まだ背中の模様が成貝とは異なり、embryonal banding(幼貝の帯)となっている。
この時の腹面は、撮影できなかったが、外唇は形成されつつあるが、歯はまだ未発達であった。

11月26日撮影

 11月8日から26日までの間に背の模様は成貝のものとなり、歯も形成された。

12月5日撮影

12月15日撮影

殻は成貝のものとなったが成長はまだ続いている。このあと、12月23日に原因は不明だが死亡する。

個体、caput02の画像

11月13日撮影

embryonal bandingと、外唇に僅かに形成されつつある歯が見られる。

 12月5日撮影

既に背の模様からembryonal bandingが消え、成貝の模様となる。

12月15日撮影

完全に成貝となり、殻の成長も僅かとなる。

1月9日撮影

前回の体測時に成長は止まったかと思われたが、20日間で1.3mm大きくなる。殻長/殻幅の値は1.52で両側の張り出しはまだ見られない。

あとがき
 ハナマルユキの若い個体を採集できたので飼育してみました。餌、水質なども全く分からないままの飼育でしたのでここまで成長させることが出来たのは幸でした。今回の飼育で分かったことは、背の模様の変化が20日間程度で急激に起こること、飼育環境下でも採集地域の個体群と同じ色調の模様となることです。また、このように一見、成貝になってもまだ成長を続けていることが分かりました。このことはハナマルユキの殻の大きさと棲息域の関係を調べる時、齢の要因が加わることになりさらに複雑さを増すことになります。
 殻の両側が張り出し、扁平になる個体は三浦半島では少なく、その原因を知りたいと思っていますが、それにはもう少し長期の観察が必要なようです。