カミスジダカラ(1)
カミスジダカラとチャイロキヌタ

真野 進
(2001.03.31.)

日本産のカミスジダカラとチャイロキヌタは同定が極めて難しい。Dr. Lorenzの本には、チャイロキヌタは色が濃いこと、髪すじ模様がないこと、はっきりとした横斑のあること、歯列が僅かに違うと有るが、実際には中間的な個体も多く、歯列の違いも明瞭ではない。このことは、チャイロキヌタの報告の中にカミスジダカラが混入している可能性を示唆している。そこで、今回、三浦・房総の両半島で採集した明らかにカミスジダカラと見られる個体、海外のカミスジダカラ標本、様々なフォームのチャイロキヌタ、中間的な個体を比較しその相違点を明らかにしようとした。

方法

採集日(Coll. Date) 2000年12月-2001年3月

採集地(Location) 三浦半島(Miura Pen.)ー房総半島(Boso Pen. )

採集法 打上貝を拾う。(Beached)

測定法・測定項目

結果及び考察

今回の測定対象になった10個体を示す。No.11の様に磨れた物では同定が難しい。この個体では両側に髪すじ模様が残っていたのでサンプルとした。

測定結果
1.サイズ(L)
size
最大17.8mm、最小13.8mm、平均15.3mm、標準偏差1.11であった。平均的チャイロキヌタに比較し、やや小振りといえる。
2.伸長度(W/L) 
elongate
最大1.48、最小1.69、平均1.60、標準偏差0.054であった。チャイロキヌタに比較し、殻長が短く、より卵形に近い。
3.扁平度(H/W)
depressed
最大0.83、最小0.79、平均0.81、標準偏差0.012であった。
4.歯数
teeth
内唇歯14ー18、平均15.1、外唇歯14ー21、平均17.0個であった。チャイロキヌタと比較すると、内唇の歯数がやや少ない傾向にある。

カミスジダカラの背と底面
 F,Gは房総・三浦半島で採集した個体。Hは、三浦半島で採集した未成貝。I,Jは標本として購入した個体。Jには全く髪すじ模様が見えない。

カミスジダカラとチャイロキヌタの中間的個体。
 K,M,N,Oは髪すじ模様を持つが色、横斑がチャイロキヌタと同じ。Lは、色はカミスジダカラのようだが、髪すじ模様がない。
様々なチャイロキヌタの背と底面
 A,Bはチャイロの個体。D,Eは紫色の個体。Cは未成貝。カミスジダカラでは未成貝の殻軸に明瞭な髪すじ模様が見られたが、ここでは全く見られない。

あとがき
 カミスジダカラとチャイロキヌタの違いを、明らかにしようと試みましたが中間的な個体では明確な線引きは難しいようです。微小貝のウェブサイトで、Shell hunterさんから次のようなご意見を頂きました。
【チャイロキヌタとカミスジダカラはきっと同種でしょう。よってチャイロキヌタはカミスジダカラの亜種の可能性があります。(中略)  当然ですがジグザグ模様のあるチャイロキヌタもあれば,ジグザグ模様のないカミスジダカラもちゃんと出現します。またどちらか判断のつかないような個体も実在しますね。
本州/四国/九州の南岸の場合は普通,チャイロキヌタが優勢でカミスジダカラは非常に少ないというばあいが多いように感じています。
この個体群のなかから,
殻の下のほうが上にくらべて細くなり,
殻の基の色彩が白かその上に雲状の模様が出る,
殻の上方が白くなるもの,
を区別するとカミスジダカラとなりそうです。カミスジになるためのジグザク模様はあてになりません。(中略) 日本の貝は世界市場には出ていくことが少なく,海外の研究者にとっては比較検討するための資料が乏しくてこういうことになるのでしょう。もっとも日本の貝だけはベールの中に入れて置きたいような気もしています。】

 あまり目くじらを立てて違いを追求するより、可愛くてきれいな貝が日本には沢山いる、と楽しんでいた方が良い様に思えてきました。