クロハラダカラ (1)

クロハラダカラは近年、小笠原、八丈島、台湾近海などでも採集されているがその数は多くなく、生態などについてもわかっていない。又、最近ハワイでオキナワダカラとカワムラダカラの種間雑種と思われる個体の報告があり(HSN)、クロハラダカラに良く似ていることから kurohawaii 等とよばれていたり(Lorenz)する。
 このように本種は研究報告も少なく、謎の部分が多いのでここに少し纏めてみたい。

先ずクロハラダカラとはどんな貝なのかを、その原記載から見てみよう。

原記載(続原色日本貝類図鑑 1961年 保育社)

クロハラダカラ Ponda kuroharai KURODA ET HABE

 殻はやや大きく、卵形で、前端の方へ狭くなる。背面はよく膨らみ、光沢がある。成貝では背面を縦に帯白褐色で薄い褐色の帯があり、中央で広く上方でやや狭くなる。縦帯の両側は褐色で縦帯と明かな境があるが、左右両側へは、次第に帯白色になって、左側は微細な淡黄斑を密布し、右側はそれが、よこ縞状にならんでいる。前端は水管溝の湾入があり、少しく突き出ている。後端も後溝の湾入がある。腹面は帯黄白色でやや膨らみ、外唇側の歯は深く明らかに刻まれて26を数え、彩色はない。内唇側は27を数え、前端に少し離れて強く1歯がある。
 殻高48.6mm、殻径(左右)34.0mm、殻径(腹背)26.7mm(模式標本)
 模式産地:高知県沖の島(水深50m内外)(黒原和男氏、サンゴ網にて採集)
 比較:オキナワダカラ P. schilderorum IREDALE は本種に最も近似しているが、背面には赤褐の明かな4色帯があり、腹面は平たく白色である。又、殻形も細い。
とある。

次に、模式産地である土佐の標本と、最近よく採集される尖閣諸島の標本を見てみよう。

 土佐・沖の島付近の標本(No.9) 全体に丸く、黄色みを帯びる。
 尖閣諸島の標本(No.11) 外唇の歯列が唇の半ばまで伸びている。茶色が強く、全体にほっそりとしている。
 この二つの標本は、外唇歯の形状が大きく異なる。しかし、標本数が少ないため、これが産地による違いなのか、個体変異の範囲内なのかは不明である。
 近縁と云われるオキナワダカラとカワムラダカラ、kurohawaii と呼ばれるその中間種を見てみよう。
 
オキナワダカラ(schilderorum Iredale,1939) 背の横帯斑、腹面の白色、歯列の刻みが弱い。

カワムラワダカラ(sulcidentata Gray,1824) 背の横帯斑、歯列の刻みが強い。

kurohawaii(Lorenzより転載)背の横帯斑、歯列は先の尖閣諸島の標本に近い。
 これらは何れもクロハラダカラに良く似ている。本邦ではオキナワダカラ採集の報告が各地からあるが、摩耗した貝では同定は極めて難しいと思われる。
 
各地で、採集した摩耗貝殻を見てみよう。
千葉県産打上貝(No.1) ここは数が上がるが、新鮮なものはなく、半化石との説もある。タイプもいろいろなものが上がっているようだ。
 
静岡県御前崎産打上貝(No.6) ここでの採集記録はまだないようだ。まだ、一個だけなので新産地とするのは問題があろう。
 
東京都八丈島揚げ砂(No.7 石井氏提供) 生体はまだ観察されていないが新鮮死殻が採集されている。これはよく膨らみ、土佐の標本と似ている。

 打上のクロハラダカラはホシキヌタの摩耗殻と良く似ており、一見したところでは区別が付けにくい。しかし、歯の細かさ、数、軸唇窩を見ると容易に見分けられる。下に、ホシキヌタの摩耗貝、クロハラダカラとホシキヌタの軸唇窩の写真を示す。

次に、大変珍しいと思われる未成貝標本を見てみる。
東京都八丈島 未成貝の新鮮死殻(No.10 加藤氏提供)。ホシキヌタに似るが、歯の数が多い事と、白斑が無い。
 
 ホシキヌタの未成貝 上のクロハラダカラと外唇歯の出来方から同じ成長段階にあると思われるが、こちらは既に白斑が形成されている。

これまであげてきた標本、そのほかに房総、八丈島で拾った殻の測定値は下表のようであった。

No

殻長
(L)
mm

殻幅
(W)
mm

背高
(H)
mm

伸長度
(L/W)

扁平度
(H/W)

内唇歯
c. teeth

外唇歯
l.teeth
未成貝
juvenile
産地
locality
1 33.9 24.0 18.3 1.41 0.76 26 25   房総
2 38.6 25.4 18.8 1.52 0.74 26 24   房総
3 38.2 27.0 20.5 1.41 0.76 26 25   房総
4 39.4 30.3  割れ 1.30   25 26   房総
5 34.6 23.4  割れ 1.48   25 25   房総
6 39.2 27.4 22.4 1.43 0.82 28 28   御前崎
7 40.5 28.9 22.3 1.40 0.77 28 30   八丈
8 35.6 26.0 21.1 1.37 0.81 25 26   八丈
9 34.9 25.6 19.7 1.36 0.77 24 28   土佐
10 34.8 23.3 19.2 1.49 0.82 23 25

八丈
11 40.5 27.1 22.3 1.49 0.82 24 25   尖閣

平均(mean)
37.3 26.2 20.5 1.42 0.79 25.5 26.1    

標準偏差
(SD)
2.54 2.22 1.60 0.067 0.032 1.57 1.81    

MAX
40.5 30.3 22.4 1.52 0.82 28 30    

MIN
33.9 23.3 18.3 1.30 0.74 23 24    

クロハラダカラの計測値報告は、紀伊水道産クロハラダカラについて纏めた、「クロハラダカラ殻形の個体間変異について」(江川 1976 南紀生物)がある。それによれば15個の標本の平均殻高(L)は、40.2mm、殻幅(W)28.1mm、背高(H) 22.2mmと今回のものより大きいが、形態的にはL/W=1.43、H/W=0.79と近似している。歯数は、内唇歯=26.5、外唇歯=26.8 と今回の計測値より若干多いが殻高の大きさが影響しているのかも知れない。

 あとがき
今回は、クロハラダカラがどんな貝であるかを私自身が理解するための纏めです。標本の数も少なく、ここから何かを結論づけることは出来ませんが、ヒョットすると台湾近海の個体群と、国内の個体群は種が違うか、又は亜種の関係にあるのではないかと思わせるほどの違いが見られました。小笠原、沖縄の個体も入手したいものだと考えております。